2.ストロガノフは、なよ竹のように

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「さぁ、まどかさんはこのドレスよ。着てみてちょうだい」  そう言って英理姉が持ってきたのは、膝丈のシフォンドレスに、立体的な刺繍があしらわれたオーガンジーを重ねたデザイン。色は淡く優しいピンクで、襟元はアメリカンアームホール。 「うわぁ~カワイイ~!」  ソファから飛び上がって駆け寄ると、英理姉はそうでしょう、と自慢げだ。早速、洗面所へ行って嬉々としながら着替えてみる。 「おお……!」  こういうデザインのドレスは着たことがなかったけど……さすが英理姉。私の貧相な体型をうまくカバーしてくれている。自分でいうのもなんだけど、似合っているんじゃないかな。  式には陽ちゃんと百瀬さんも招待されているけど……このドレスを着た私を見て陽ちゃんはどう思うだろう? 少しはきれいとか、カワイイとか思ってくれるかな……?  チラッとそんなことを考えたら、私のたくましい想像力が加速し、陽ちゃんがドレス姿を褒めてくれた上に、「惚れ直したぞ」と言ってくれたところまで一気に妄想。興奮のあまり悲鳴を上げそうになり、なんとか押し殺そうとのけ反った刹那、洗濯機の棚に嫌というほど頭をぶつけてしまった。 「──まどかさん? どうしたの? 大丈夫?」  鈍く痛い音を聞きつけた英理姉がノックと共に声を掛けてくれる。 「だ、大丈夫! なんでもないっ」  ああ……私って本当にアホ……。これじゃあ、孝輔のことをどうこう言える立場じゃない。私の結婚式じゃないんだぞ? 英理姉を輝かせるためのお手伝いなんだぞ? 私が浮かれてどうする!
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