最終章.想いの重なるオムライス

99/102
前へ
/644ページ
次へ
「本当にありがとう。お疲れさま」  ごく短い言葉だけれど、陽ちゃんの人柄と深い愛情を感じる。その手のぬくもりと大好きな声、赤ちゃんたちが無事に生まれた安堵感と充足感、そして得も言われぬがいっぺんに胸へと押し寄せ、私はその苦しさに「陽ちゃん、陽ちゃん」と声を上げて泣いてしまった。 「ここにいるよ。どうしたんだ? まるで何年も会ってなかったみたいに……」  少し困ったように笑いながらそっと涙を拭ってくれる。 本当……急にどうしちゃったんだろう。出産を終えたせいで気持ちが高ぶってしまったのかな? 覚醒する前に何か夢を見ていたような気がするけど、意識を失っていたからか、その部分だけ記憶がストンと抜け落ちている。あれれ、どんな内容だったっけ……?  そのことは思い出せないまま、空白の数時間について陽ちゃんから教えてもらう。それによると、赤ちゃんたちは産声を上げて間もなく手術室から新生児室へ移されたそうなんだけれど、あとはお腹を閉じるだけの私がなかなか出て来ず、かなり心配したらしい。うちの子たちは一卵性双生児で一つの胎盤を共有していたため、通常よりも胎盤が大きく、それが剥がれ落ちた時の出血がとても多かったみたい。  夕方になるとようやく赤ちゃんたちとご対面。一人目は2613g、二人目は2528gと双子としては十分な大きさだ。自分の腕に抱くと無条件に愛しさがこみ上げてきて、母親としての喜びに胸がいっぱいになる。あまりにも感激し過ぎて陽ちゃんと二人して泣いちゃったくらい。  その後、一旦帰っていたお母さんと葉子ママが真珠ちゃんを連れて来てくれて、みんなの嬉しそうな様子に感慨もひとしおだ。  双子の子育ては間違いなく想像を絶する大変さだろう。でも今は不安よりもワクワク感の方が大きい。陽ちゃんや家族と一緒に、このちっちゃな二つの命を大切に大切に育てていこう──心からそう思った。 *     *     *
/644ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1774人が本棚に入れています
本棚に追加