最終章.想いの重なるオムライス

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 それから二週間後。 管理期間も含めると約二ヶ月という長い入院生活を終え、私と赤ちゃんたちはようやく家に帰ることができた。 手術時の多量出血でひどい貧血状態だったため、最初の三日間はその治療と回復に専念。歩くこともままならず、後陣痛のすさまじい痛みに耐えなければいけないのも大変だったけれど、一番辛かったのは赤ちゃんたちと同室で過ごせず、授乳もできなかったこと。それでも焦ったってしょうがないと自分に言い聞かせ、じっくり療養して確実に回復することができた。  そうそう、赤ちゃんたちの名前は陽ちゃんとも相談した結果、朝陽と晴陽に決定。みんなからは「あーちゃん」「はーちゃん」と呼ばれている。  さて、今日は火曜日なので折よくお店もお休み。十時半ごろ病院から戻り、早速時間差で泣かれて二人分の授乳やオムツ替えをしていると、もうあっという間にお昼すぎ。何をするにも二倍だからか、時間が過ぎるのも早く感じる。  晴陽の方がちょっと泣き虫で、抱っこしながらリビングのソファに座っていたら、いつの間にか一緒にウトウトしてしまったみたい。陽ちゃんの「そろそろ昼メシにするか」という声で起きた途端、お腹のアメリカ人が盛大に騒ぎ出す。ああ、猛烈にお腹空いてきた……!  陽ちゃんは家の台所で拵えてくれるつもりだったけれど、私のリクエストでお店に変更。朝陽と晴陽を連れてバックヤードからフロアへ出ると、懐かしい光景に鼻の奥がツンとしてくる。柱時計のカチコチという音も、まるで「おかえり」って言ってくれているみたい。  朝陽と晴陽をベビーラックに寝かせ、初めて訪れた人のようにお店のあちこちをゆっくり見て回る。ピカピカに磨かれた出窓、レトロなダイニング灯とテーブル、ステンレスの調味料セット、ニッチに飾られたノーマン・ロックウェルのリトグラフ、カウンターのレジ脇に飾られた仙台四郎さん。入院前……ううん、子どもの頃と比べてもほとんど変わっていない。ミクリヤはいつでも私を優しく迎え入れてくれる。
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