最終章.想いの重なるオムライス

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 そのことに心からの安らぎを感じていると、厨房からふんわりといい香りが漂ってくる。これは……そう、タマネギと鶏肉、マッシュルーム、そしてごはん。それにミクリヤ自慢の甘いケチャップが炒め合わされたチキンライスの香りだ。  私はタイミングを見計らい、二人分のカトラリーとお冷やを七番テーブルに用意する。程なくして陽ちゃん自ら「おまちどおさま」とオムライスをサーブしてくれた。  真っ白なお皿にまったくムラのないスベスベした黄色いたまご。その真ん中にたっぷりと掛けられた見るからに濃厚なケチャップ。そこにちょこんとパセリが添えられ、それぞれの色彩が鮮やかに映えている。こちらも何一つ変わっておらず、なんだか昔の友人に再会したみたい。 「ああ、おいしそう……。久しぶりだねぇ、元気だった?」  思わずオムライスに話し掛けた私に失笑しながら、陽ちゃんがコンソメスープも持って来てくれる。相変わらず美しく澄んだ琥珀色で、立ち上る湯気からは、香味野菜と牛肉の香りがとてもふくよかに漂う。 「じゃあ食べるか。いただきます」 「いただきます!」  着席した陽ちゃんと手を合わせ、まずはコンソメスープを一口。香りに違わずしっかりとした味だけれど、塩味も含めてすべてがまろやかにまとまっている。 「はぁ……おいしい」  スープの余韻を楽しみながら、早速オムライスにスプーンを入れる。端っこの部分をたっぷりすくって頬張ると、絶妙にトロッとしたたまごと一緒にチキンライスが登場。ケチャップの甘さがフライパンの熱で更に凝縮され、良く炒められたタマネギや鶏肉とも相まって、ごはんの一粒一粒がまんべんなくすべての旨味を纏っている。噛みしめる度においしさが増し、ほんのりとしたトマトの酸味が鼻腔を抜け、またすぐに次の一口が食べたくなっちゃう。昔も今も本当に優しくてホッとする味。 「すごく、おいしい……」  そう声にして初めて自分が泣いていることに気が付く。 「そうか。それなら良かった」  穏やかな陽ちゃんの笑顔が二年前のあの夜と重なる。席は違うけど、こうしてテーブル席に座ってオムライスを食べさせてもらったんだっけ……。自棄になって死のうとしていた私を陽ちゃんが救ってくれたんだよね。
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