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 だから、片桐自身も今まで気にも止めていなかったのだが。  その、「限りなく控えめ」な春彦が、何度も何度もしつこく自分にせがんだのだ。  「絵はがきを下さい」と。  なぜ、そんなに欲しがるのか。  たいていの男ならば仕事仲間に貸しを作ったら、晩ご飯や酒代をおごらせるのが普通だろう。  実は片桐も事後処理を任せた時は、一食おごるつもりだったのだ。ところが、春彦の求めるものはそうでなかったから面白い。  本間も言っていたが、随分と安いものを請求するものだと、片桐は思っていた。  しかし。  今、「中村春彦」という男自身を考えてみて、彼の言葉の意味がわかったような気がした。 「福岡だなって、感じられればいい」  彼は、言葉を選び選び、そう言った。  きっと、北国育ちの彼は行ったことのない九州という地方に対して、ある種の憧れを持っているのだろう。  南の国。  暖かい風。  いささかずれたイメージだと、少しは感じているが、自分の里とは違う土地柄に違いない。  テレビ画面はある程度の情報を伝えてくれるが、それをじかに感じ取ることは出来ない。  九州に住む人の手紙をもらえば、少しは南の国に対する感覚が広がるかもしれないと思ったのだろう。  そして、春彦の言葉。  「絵はがきを下さい」  ほのぼのと春彦は笑う。
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