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「・・・行くか」  片桐は肘をついて起き上がり、車のキーを持っておもむろに玄関へと向かった。 「啓介?いきなりどうしたの。今から、どこかでかけるの?」  靴箱を開く音を聞き付けて、母親が声をかける。 「ああ。たいして遠くには行かないつもりだけど」  車を借りるから。  キーを母親に見せて言う。 「車はいいけど、午前中から何をしにいくの?」  いつも家に戻ってきたときには、ひたすら怠惰に過ごして日が暮れてからしか動きださない息子を不思議そうに眺める。 「ちょっと。・・・はがきでも買いに」  そう言って、少し照れくさげに片桐は笑う。  もし、今度九州担当の仕事が回ってきたら、春彦を連れて行ってやろう。  もちろん、かならず観光が出来るように自由時間を組んでやって。  ここが、自分が密かに憧れた南の地だと、全身で感じ取れるように。  まず、その前に。  絵はがきを送ろう。 「残暑見舞い申し上げます。  想像以上に暑くて、水がない。  とりあえず、空は青かった。          福岡から、片桐啓介」
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