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「今年の夏の福岡は暑いというだけでもうんざりしているのになぁ。勘弁してほしいよ。まったく・・・」  この間、福岡と沖縄をハシゴ出張してきた者が、なんと「福岡の方がずっと暑い」と明言しただけに、片桐の心はブルーであった。 「そうか。片桐さんのお里って、福岡だったんですね」  どういうわけか、中村はにこにこと嬉しそうに笑う。 「ああ。市内じゃないけどな」 「あ、それでもいいです」  中村はますます嬉しそうに頬をゆるめる。  何が何だかよくわからないが、だんだん妙な予感がしてきた。 「ハル・・・?どうした?」  上機嫌な中村に恐る恐る片桐は尋ねる。 「絵はがき、下さいね」 「はぁ?」 「だから、福岡の絵はがきを俺に送ってくださいねって言ってるんです」 「・・・は?」  一日のほとんどを共に過ごす仕事仲間の顔を穴があきそうなくらいに見つめたが、少し潤んでいるような黒目がちの瞳に笑みを浮かべられてしまい、片桐の血液は何故か凄まじい勢いで上昇していった。 「お、おいっ、ちょっと待てっ。なーんで俺がお前に絵はがきを送らにゃあいかんのだっ」  叫びに近い片桐の問いもなんのその、中村はほのぼのと笑った。 「俺、九州って行ったことないんですよ。だから、どんなところかなぁと思って」  あ、送り先は寮にお願いします。名刺の裏に書いてありますから。  そういいながら、勝手に片桐のシステム手帳を取り上げて、うきうきと名刺を挟み込む。 「あーのーなー。ハルよぉ。俺たちゃあ、女子高生じゃないんだぜ?勘弁してくれよー」  ばりばりと片桐が頭を掻くと、中村が一転して悲しそうな顔を向けた。 「だめですか?」  きゅうん。  まるで飼い主にじゃれついてみたもののすげなく振られた子犬のような、切ない目付きをする。 「片桐さん、あの伝票預かってくれたら、後で礼はいくらでも弾むからなって言ったのに・・・」 「う・・・」  言ったような気がした。・・・確かに。  先月の初めの仙台出張。  確か、最終日の朝は前日の飲み会でへべれけになった片桐が思いっきり寝坊したがために、予定が押せ押せになっていて、ホテルのチェックアウトなどの事後処理は一緒にいた中村に全て任せていたのだった。
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