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「頼む!後で礼はきっちりするからっ!」
そういったのは、間違いなくこの自分だし、礼を受けるべき立場にあるのは目の前の中村春彦(二十歳・独身)なのだ。
しかし、まさかこのような『お礼』を請求してくるとは誰が思うだろう?
「でもなぁ。福岡は観光名所って意外とないしなぁ・・・」
「そうなんですか?」
「ああ。お前、福岡県って言ったら、どんなイメージ持ってる?」
「ええと・・・。ダイエーホークス、福岡ドーム、太宰府、・・・柳川も福岡ですか?」
中村は宙を見つめて白い指をゆっくり折りながら数える。
「正解。で、他は?」
「福岡タワー、明太子・・・。それから、台風ですね」
「台風~?」
なんだ、それは・・・、と片桐は呟く。
「ええ。俺の里は、あんまり来ませんから。台風は」
「・・・お前、どこだったっけ?出身」
まじまじとその白いおもてを見つめて尋ねた。
「新潟です」
「そうかぁ。福岡は、年に一回は台風のおかげで交通機関がストップするし、必ずどこかの農作物が被害に遭うんだけどなぁ」
「テレビで見て、びっくりしますよ。あれは。ああ、南の国だなぁって思いますから」
「南の国ねぇ・・・」
ふぅ、と片桐はため息をつく。
「まさか、お前、福岡には椰子の木が生えていて、みんな裸足で歩いていて、アロハシャツとか来ている、とか思っているんじゃぁないだろうなぁ」
「・・・すみません。ついこの間まで、そう思っていました。」
「・・・期待させて悪いけどなぁ。積もることは最近滅多にないけど、一応雪は降るんだよ。福岡は」
「ええっ?そうなんですかぁ?」
「そーなんだよ」
片桐は、さらに盛大なため息を天に向かって吐き出した。
実際、関東より北に住んでいて、九州に一度も脚を踏み入れていない人の認識なんて、こんなもんである。
福岡=九州=鹿児島=沖縄=南国の図式が根強いためなのか、九州人が聞いたら、卒倒しそうなイメージを平気で抱いている。
単に、福岡が本州の各都市に比べて地味な都市であるからなのか、現在の日本地図が、やたらと日本列島の長細い事を主張しているからなのか、理由は定かでないが。
「そういえば、最初お会いした時に、片桐さんって、九州の人っぽくない顔立ちだなぁって、思ってたんですよねぇ」
「かーっ。なんだよ、それ。お前、九州人の顔って、いったいどんな顔だよ?」
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