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「福岡だなって、感じられればいいんですから」
「うーん。なにもさぁ。俺でなくても、九州担当の奴がいるじゃねーかよぉ」
渋る片桐の横で、いきなり本間がふらりとやって来て口を挟む。
「そおよぉ。中村さん。こんなへなちょこな人から手紙をもらってどうするのよ。それに、葉書一枚なんてお礼にしちゃ、安すぎるわよ!!」
二人に、差し入れのお菓子を手渡しながら本間はさらに言う。
「そういうときはねぇ。どーんと、特上の明太子を買ってこい、とか、特性生ラーメン買ってこいとか言うのよ」
いーい?わかったぁ?
幼稚園の先生よろしく、本間は中村に言い聞かせる。
「おいおい・・・」
片桐は、眉と口をへの字に曲げる。
「あ、片桐さん。私は無着色・無添加物の明太子でいいわ。安物は嫌よ。辛いだけでまずいんだから」
「・・・ちょっと待った。なんでお前にまで土産物を買ってこにゃ、いかんのだ?」
「そりゃ、きまってんじゃなーい」
ふふん。
腰に両手を当てて仁王立ちになるなり、ポーズを決めた本間は宣言する。
「こーんなに色々、いろっいろ、尻拭いしてさしあげているこの私に、礼の一つも出来ない男なんて、外道以外の何者でもないわよっ」
「・・・」
「あ、それと、みんなにはチロリアンか、鶴の子か、松露饅頭か・・・、夏だから、ゼリーでもいいわ。まちがっても、鶏卵素麺なんて買ってこないでよ」
鶏卵素麺とは、細く焼いて素麺のように仕立てた卵焼きを砂糖づけしたようなもので、とほうもなく甘く、名物ではあるのだが癖があるので好き嫌いがはっきり別れてしまう和菓子のことである。
ちなみに、「素麺」という名前で勘違いして思わず熱湯で茹でてしまい、無駄にしてしまう人は意外と多いらしい。
「はぁ・・・。そうですか・・・」
片桐は両手で頭を抱えてため息をつく。
そんな彼の背後では、本間の配った菓子とお茶を片手に、自分たちを肴にして、笑いさざめいている人たちの声が聞こえてくる。
「片桐がまた、本間と春ちゃんに無理難題言われてんなぁ。かわいそうに」
これは、松村主任の声。
「なっさけねー。本間ばかりか、春ちゃんにまで負けてやんのー」
これは、同期の柏原の声。
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