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「春ちゃーん。あんまりいじめると、啓介は本当に泣くぞー」  こ、これはっ、小畠課長の声っ!  どっ。  課長をはじめ、その場にいたみんなが腹を抱えて笑う。 「笑っとらんで、助けろ・・・」  俺って、人望ないんだな・・・。  ちょっぴり、いやかなり淋しくなった片桐は、もう一度、深く、ふかーく、ため息をついた。  青い。蒼い夏の空が目の前に広がる。 「福岡の空って、こんなに青かったかな・・・」  畳の間に大の字になってねっころがっている片桐は、窓の外を逆さに眺めて、ぽつんと呟く。  せっかく、山ほどある仕事を片付けて里帰りしたものの、地元に就職した学生時代の友人連中で集まるのは夜と決まっているので、昼間は何もすることがない。  することがなくて暇を持て余すと、ふっと、中村の言葉を思い出した。 「絵はがき、下さい。何も書かなくていいですから」  ふわりと春風のように中村はそういって笑った。  片桐と中村の所属する設計部は、コンピューター部門の設計・企画を一手に引き受ける部門で、分野が広いためにそこで仕事をする技術者は山ほどいる。  しかも、たいていの仕事は、SEや営業やプログラマーなど諸々の人とプロジェクトを組んで仕事をするため、片桐個人の範囲で見ても関わりあいを持つ人間はかなりの数である。  そうすると、結構何度も遭遇する問題が一つある。  「名字の同じ人間が何人もいる」ことである。  「田中」や、「鈴木」や、「吉田」や、「佐藤」、そして「中村」・・・。  難しい名字より漢字が分かりやすくていいのだが、「中村」など、片桐の仕事に今のところ関わりのある人間は顧客を含めて五人もいた。  ちなみに、これは「今のところ」であるから、これからもどんどん増えていくのは間違いない。  世界中に「中村さん」はいったい何人いることやら。  ・・・全国の「中村さん」には申し訳ないが、片桐は気が狂いそうである。
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