プロローグ

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 気になるヤツがいる。  いや、『ヤツ』と言うには、はばかりがあるか。なにせ、その相手は俺より五つも年上なんだ。  毎日でも、顔が見たいと思う。顔だけじゃない。声も聞きたい。その人がいる空間に俺もいたい。  俺のことも見てほしい。会話も交わしたい。名前を呼んでもらいたい。 「昼休憩、行ってきます」  だから、今日もいそいそと足を向ける。あの人に会いたいから。  同じ空気を吸うだけでもいい。その姿を、声を、思考を、存在を。間近で、俺の全てで感じたい。  ——必ず手に入れる。俺しか見えないように囲い込む。身も心も、余さず奪う。  そう、固く心に誓っている人だから。
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