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手早く無駄のない、きびきびとした動作。蕎麦を丁寧に扱う繊細な指。接客時のふんわりと柔和な笑みが、厨房に入った途端に一変する、
職人としての真剣な表情。一日のほとんどの時間を仕込みと営業のために店で過ごすという、真面目で誠実な人柄。
そして、客の出入りの度に発せられるきびきびとした挨拶は、甘めの声色なのに、なぜか店内によく響く。
料理人らしく清潔に、短めに整えられた襟足だが、そこから覗くうなじは、首が長いせいか、何ともいえない艶めかしいラインを描いている。細面の優しい顔立ちを縁取るのは男っぽい印象を見せるベリーショートで、対して、その髪は柔らかな淡茶色。
どこもかしこも、絶妙なアンバランスさが保たれている。堪らない。
何もかもが、俺のツボを刺激しまくってくる貴重な存在を、ただひたすら、視線で追う。追わずにはいられない。
この稀有な人は、俺のひとめ惚れの相手だ。
先月転職したばかりの勤務先から徒歩五分に位置する蕎麦処、『すみや』の店主。伊澄静流。三十歳。
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