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「あらっ! これなんですか?」
おじいさんは、いきなりすっくと立ち上がりました。
背は小さいががっしりした体つきです。
少し移動するといきなりしゃがんで、強靭そうな指で、ガシッと畳のヘリを掴みステテコの足を踏ん張って、意外な力強さで、座っていた畳をガバリとはずしました。すると下はすぐ土で不思議なツノののようなものが行きつも突き出ていました。
コレ、タケノコ?
畳をも突き破り、おじいさんのアグラの真ん中から飛び出していたのは、大きなタケノコだったのです。床下には、他にも小さいものが幾つも頭を出しています。竹の根は龍のごとくうねり家の床下全体に広がっているのでした。
「すごいっ」
私は感歎の声を上げました。その声に励まされてか
「ふん、何がセタガヤク シテイ ホゴ チクリンじゃあ、わしの竹薮だ」
何かスイッチが入ったようです。
おじいさんはビックリするほど大きな声が出るのでした。
「他人の庭に子連れでわいわい来おって、
わしの竹薮を勝手に掘りかえしおって!
バカめらが!床下の筍が一番、美味いんだ」
イキイキとカクゼツのよくなったおじいさんに
「そうだ、そうだ!」
私はなんだか嬉しくなって相の手を入れました。
おじいさんは手元にあった小さな鉄のヘラみたいなもので、ほんの12、3センチ程のたけのこを四つ、手際よく掘り出してくれました。そして私に突き出します。
「もらっていいの?」
床下の筍は、いかにも柔らかそうに色白なのでした。
最後の空気が抜けきった私は素晴らしく身軽になっています。
不思議にアパートで一人暮らししたいなんて考えは吹き消えていました。
ふん、ローンの残っている我家の床下に、私だって龍のごとく根を張っているのです。家に帰ったら「何も無かった顔」で「乳あて」をつけ、京都に負けないご飯炊いてやろう、そんな気がふつふつと湧いてきました。
しかし夫や娘たちには食べさす気はありません。
「おいしい筍ご飯炊いて、明日もって来ますね」
私はそう言って湯のみを片付け、竹藪の家を後にしたのです。
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