雀のお宿

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 発端は、次女ノゾミの言いつけ口でした。 夕食の片付けも終わり、明日のお弁当のイロドリにと、私は機嫌よくニンジンをバターで煎り付けていたのです。その背中越しにノゾミが覗き込みました。 この娘はずんぐりした体躯に似合わず、気配もなく人に近づきます。 「ママ、あのねぇ」 14歳らしからぬ腹の座った声。 「ユウミね、自分のおっぱいの写メ、売ったんだよ」 私は思わず菜箸を取り落としました。 「騙されて、知らないオヤジにおっぱいの写メ送ったんだよ」 私はもう、気が動転して声が出ません。  中学一年の三女ユウミはスマホを手にしたばかりです。ノゾミによれば、出会い系の「会わずにお小遣い一万円」の看板に引っかかり写メを送ったうえ、自分名義の郵便局の口座を教えたというのです。もちろん一万円は振り込まれませんでした。 「それで昨日から凹んでるの。こういうの振り込む詐欺って言うんじゃない? 振り込めって言わないで、振り込むって言って詐欺するんだからさあ」 ノゾミは無表情でしたが、瞳にイキイキした光がみなぎっています。こういう時のノゾミは本当に意地が悪い。自己中心的な長女フユミと、突拍子もないことをして人を驚かす妹に挟まれ観察眼が冴え、ソツがありません。私に似て姉妹の中では一番器量が悪いので、底意地悪くなるのも仕方ないかもしれませんが。  私は悩みました。口座の件は朝イチで郵便局に連絡するとして、問題はユウミです。というのも、本人は騙されたことにショゲてはいるが、罪悪感は一向にない様子なのです。大きな黒目がちな瞳、体つきもスラリとし美人の部類です。成績もそこそこですが、ユウミはどこかタガの外れた、常識から逸したところがありました。小学校3年生の時、同級の男の子3人に塀の上から飛び降りる競争をさせ、骨折させてしまったことがありました。見に行くと普通の住宅の塀ではなく、三メートル位ある工場の塀です。10歳にもなって、この危険がわからないはずはない。これはマズイという境界線が、この子にはない。いつか、とんでもないことをするんじゃないか…私はそんな予感がしていたのです。
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