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青白いちらちらするテレビの光に照らされて座っていたのは「生きている」おじいさんでした。
「すみません、立派な竹薮だなと思って…」
立ち去ろうとすると、何かもごもご言いながら手招きをする。恐る恐る近づくと、手振りをして何か言いたげである。今度は「孤独死」と言う言葉がぱっと浮かんできました。
「どこか、具合でも悪いんですか?」
すると、骨のような手でテレビを指しています。
「え、なに?」
「消して、消して」
と言っている。
リモコンで自分で消せないのか?
私はサンダルを脱いで「失礼します」と座敷に上がりテレビのスイッチを押してを消しました。
おじいさんは今度は座卓の上の茶筒を差して
「お茶、お茶」
と言う。
「はあ…あの、ポットはどこでしょうか…湯飲みはこれ?」
という具合に、いつの間にか熱いお茶を前におじいさんと座卓を挟んでいる。
だだっ広い座敷、擦り切れた古畳、たたんだ新聞、タオル類、古い団扇やカレンダー、いろいろなものがある割には整頓されていて、老人の一人暮らしが意外に快適であることが良くわかるのです。あら、ここ、決して居心地悪くないなあ…なんて、私は意外とノンキなところがあるんです。
「そこ、そこ」
と言われるままに、茶箪笥の引き戸を開けると菓子のパックが一つ入っています。
手に取ってから
「あ、これ、花鳥庵のお菓子!」
と思わず言ってしまいました。
それは、駅前の大きな和菓子屋さんが季節ごとに売り出す半生菓子のセットなのです。その時期にふさわしい、今なら、アヤメに流水とか、鮎、紫陽花などを、ゼリーや落雁などで作ってあり、それがきれいな紙の箱に並んでなんとも可愛いのです。違うお菓子が十個入って一箱2000円。私は前から欲しいなあと思いながらも、もったいなくて買ったことは無かった。手に取ってつくづく眺めるのも初めてで、思わず声がウキウキしてしまうのでした。
「これ、食べてみたかったんだわ…開けていいの?」
うなづいたなり、おじいさんはお茶を一口含み、目を閉じて黙ってしまいました。私はかまわず、水色の透き通ったゼリーの中に白い鮎が浮いている丸いお菓子を指で摘まんで、はて、と考えました。それにしても、おかしなことになってしまった。
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