1. 博士課程3年・3月・下旬

1/6
2人が本棚に入れています
本棚に追加
/404ページ

1. 博士課程3年・3月・下旬

1. 博士課程3年・3月・下旬  三月の大学は静寂に包まれているんだ。 授業がないから、 学生達は帰省したり、 卒業生は卒業旅行へ出かけたりする。 でも、 大学の組織は、 水面下で、 卒業生・修了生を輩出するための手続きのために、 最も機能している、 あるいは、 しなければならない時期なんだ。 その機能のゴールは、 「卒業式」。  僕はそのゴールで、 十年間という大学生活にピリオドを打ち、 「博士」という学位を手にする。  卒業式。 学部生・修士課程学生・博士課程学生、 合わせて、 二千五百人くらいはいようか、 就職活動でくたびれきったスーツ、 着物、 各国の民族衣装、 何か得体の知れないアニメか何かの衣装、 などを身にまとい、 一同に大学のメインホールに集結した。 卒業式の始まりを告げるファンファーレが堂内に鳴り響いた。 大学のオーケストラによるファンファーレは、 この街、 ステラシティに降りしきる雪を、 このホールを中心として、 徐々に溶かしていくかのように、 そして、 この閉鎖された空間の中だけは、 春のような暖かさと、 華やかさを醸し出した。  ファンファーレの後、 卒業式の開会の挨拶となり、 大学総長の告辞が僕達に対して贈られるんだ。 「皆さん、
/404ページ

最初のコメントを投稿しよう!