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2034.
「スバル、聞きたいことがあるんだけどね?」
「はい。何でもどうぞ!」
カモン!と両腕を広げている。また抱きしめる気じゃないだろうな。
そのことには触れないようにしつつ、話を進める。
「スバルが死んだ時のことを教えて欲しいんだ」
スバルの顔が一瞬、寂しそうに見えた。
「良いですよ。じゃあ、ここでは何ですし、縁側に行きましょう」
隣合って縁側に座ると、彼女は静かに話し始めた。
「私が無くなったのは、10月17日。2017年のことです」
「僕の一週間前……」
「そう、なんですか? 運命感じちゃいますね!」
重い話の最中に、ニコニコしながらそんなことを言うもんだから、思わず吹き出しそうになった。
「スバル~?」
ちょっと怖い笑いを浮かべると、スバルは顔を引きつらせながらしょんぼりと肩を落とした。
「ハ、ハイ。ゴメンナサイ。……私は元々、体の弱い人間でした。学校にも余り通えず、小中は何とか卒業できましたが、高校への進学は無理でした。
周囲に置いていかれる焦りの中、私が願ったのは、『青空が見たい』でした」
「青空? 見たことはないの?」
「……はい。お恥ずかしながら……。写真では見たことがあるんですけど、生では見たこと無くて」
彼女の目が、遠くの魚達を捉える。
「そしてある日、一人病院を抜け出して向かったのは、病院から徒歩15分の崖でした。まともに外に出たこともなくて、運動もしてこなかった私にとって、その15分は苦痛だったけど、最初で最後のチャンスだったんです」
「何で?」
「見つかったら、もう外に出られないと思ったからです。……そして、崖に辿り着いたけれど」
静かに、目を閉じる。まるで、当時の記憶を呼び起こしているようだ。
「……青空を見ることは叶いませんでした」
彼女は寂しそうに言う。
「いや、最初から分かってはいました。空は晴れてませんでしたから。……でも、きっと晴れてくれるんじゃないかって。そうしたら私の人生にも、意味があるんじゃないかって、そう思ったんです」
でも、青空は見れなかった。
この少女は、青空というごく当たり前のものを見るために、自分という存在を全て使った。
それを以ってしても、叶えられなかったから、
「そのあと、私は崖に身を投げて、その生涯を終えました」
その結末を、僕は予想出来てしまった。
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