出会い 1

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出会い 1

 一瞬、真冬の夜明けを見たのかと思った。  そう思わせるほど、目の前に広がった相手の髪は素晴らしい色をしていた。  後ろ髪は項が丸出しなほど短いが、その分横髪と前髪は長めに作ってある。その髪が優雅に波打っていて、無駄のない造形のよさを感じさせた。そしてとにかく、色がいい。  頭頂部から真ん中までは、目覚める寸前の夜空のような濃紺。そこから薄緑、橙、黄色と色が階調し、毛先は朝に燃える太陽のような真紅。まだ半分夜の朝焼けをそのまま刷り込んだような、実に見事な濃淡の髪色だった。  百人中百人が『絵に収めたいような夜明けの空』と評価するに違いない色が、相手の髪にそっくりそのまま刷り込まれているのだ。  あまりの美しさに青年は声を失っていた。 「――帰れ」  相手が声を発して、ようやく我に返る。小柄な身体から発されるのにちょうどいい、少し高めで掠れた声だった。  その声をきっかけに、青年の中に怒涛の気持ちが沸き起こる。それは感激とか感謝とか、素晴らしいものに出会った時に駆られるものすべてが籠もった感情だった。 「すごい……本当に綺麗な髪色ですね! こんなに綺麗な髪初めて見た」  心の底から伝えると、相手の顔が怪訝そうに歪む。相手の肌は死人のように白く、灰色の目はそこらへんの石のように魅力も素っ気もない。青年にとっては、それがなおのこと髪の美しさを引き立てているように思えた。  夜明け色の人は、青年より頭半分ほど背が低い。細眉を寄せて眉間にしわを刻み、じっくりと青年の顔を眺める。何を隠そう、二人の顔は相当な至近距離にある。  相手はたっぷり時間をかけて何か考えたあと、改めて青年を見た。 「お前……状況分かってるのか?」  そう言って、まさか本当に分かっていないのか、と念の為左手に力を込める。そうすれば自動的に握りしめていたそれが進み、じわりと青年の喉に押し付けられた。  背中を壁に押し付けられ、正面は相手の身体で塞がれ、喉には銀の刃物を突きつけられる。その状況で心底相手の髪色に感動してみせる青年に、夜明け色の人の方が困惑した。そんな末恐ろしい態勢だからこそ、青年の目の前にこの美しい髪が迫ったのだけれど。
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