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火の見櫓
町の外れに火の見櫓がある。といっても今は使用されておらず、取り壊しの時期を待っているような代物だが。
櫓は見ただけで判る程老朽化が進んでいて、迂闊に上ったら危ないと、四方を高い柵で囲んであるのだが、こういう古ぼけた高層建築は子供の好奇心を実にくすぐる存在で、どんなに『上るな』という貼り紙をしても、柵を乗り越えて櫓に上る悪ガキが後を絶たなかった。
かくいう俺も、子供の頃柵を乗り越えたことはあるのだが、櫓の高さと古ぼけた様子にビビり、上るのを断念したことがある。でも今にして思えば、それは最善の決断だったのだ。
俺は生来気が弱く、一人でなら立ち入り禁止の場所になど決して入らない性格だが、柵を越えた日、俺の側には幼馴染が一緒にいた。
こいつは周囲が手を焼く悪ガキで、幼馴染だから一緒にいはしたけれど、俺の扱いはパシリも同然。仲がいいとは決して言えない存在だった。
その幼馴染に強引に誘われて、俺は不本意ながら櫓を囲む柵を越えたのだ。でも古ぼけた櫓は真下から見ると想像以上に高く、足が竦んで、どうしても上ることができなかった。
そんな俺を意気地なしと嘲りながら、幼馴染はするすると櫓を上って行った。
「すっげぇーー! いーい眺めだな!」
わざと俺にあてつけるように、大声を上げながら四方を見渡す。そんな幼馴染が突如ぎょっとしたような声を上げた。
「え? 嘘だろ? …俺の家が火事だ!」
一声そう叫び、幼馴染は慌てて櫓から下りてくると、俺を置き去って自宅方向に駆けて行った。
俺も必死に後を追い、どうにか幼馴染の家付近まで辿り着いたら、首を捻る幼馴染と出くわした。
「おっかしいな。確かに家が燃えてるように見えたんだけどなー?」
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