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夏休み明けかな。あの女の一駅あとから、ヒロヤくんが乗ってきたんです。
わたしの乗る電車の時間だと、朝課題ギリギリになるから、いつもは十五分ほど早いのに乗っていたらしいです。けど、その日は間に合わなかったんだって。
それからは一週間のうち、一回か二回は、わたしのために遅い電車に乗ってくれるようになったんです。
素敵な話でしょ。
いえ、違いますよ、ヒロヤくんは「君のために」なんていうような男の子じゃないです。はずかしがり屋さんなんです。
そこがまた、いいんですよね。
たまたま、なんて口では言ってましたけど。そう、心をのぞいたんです。
ヒロヤくんと電車で顔をあわせるのは六分間だけです。たったそれだけなのに、わたしにはかけがえのない時間でした。
残念なことに、彼はわたしよりも先に降りちゃうんです、ここで。
ほら、この駅、すぐ近くに私立の進学校があるじゃないですか。あそこの生徒です、ヒロヤくんは。わたしは、あと五駅先まで乗るんですけどね。
今日は、突き飛ばすために、早起きして、こっそり待ち伏せしたんです。
どうして突き飛ばしたか、なんですけど、やっと婦警さんが聞きたいところにきましたね。辛抱強く待ってくれて、ありがとうございました。
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