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佑二が心底感心した、という顔で呟いた。
「まあ、本人を見たらなるほど、と思いますよ。」
教授が言い終わってレモンティーを飲み干すとしばし沈黙が続いた。
「じゃあ、その人に会えるのもバイト料だと思って明日もガンバローっと・・・。」
祐二がが締めくくりの様にいうと、笑いがさざめいた。
午後からの作業は思ったよりも早く進んだ。流れ作業にも慣れてきてこまめに休憩をとったので疲労感が少なかった。重い機材の運び方のコツを教授が教えてくれた。
「厚手の古い毛布を何枚か重ねて、その上に土練機を載せて毛布の端を重ねて持って引っ張るんですよ。これで相当労力が節約できます。」
「うわあ、ホントだ。全然楽ですよ。嘘みたいにスルスル引っ張れます。2人で十分ですね。」
佑二が感激して叫んだ。俺と佑二の2人でろくろ1機と土練機を30分程で移動することが出来た。
「いやあ、やっぱり若い人がいると作業が早いね。予定より大分早めに終わりましたよ。ありがとうございました。」
工房の時計は4時半を指していた。教授が頭のバンダナを外して汗を拭きながら頭を下げた。
「これ、持って行ってくださいね。タルトとサンドウィッチの残りですけれど。」
麻美さんが白いポリ袋を3つ下げてきて、一番近くに立っていた俺に渡した。
「あ、すいません・・・。遠慮なく頂きます・・・・。ありがとうございます。」
俺は軽く頭を下げた。渡されたポリ袋を覗くと、よく店でもらうテイクアウト用のお洒落な紙のパッケージが2つ見えた。カフェを開店するというのがリアルに感じられる。
「また明日もよろしくお願いします。明日の方がきついけど、毛布方式で多少は楽出来ますから見捨てないでくださいよ。」
「分かりました、教授。大丈夫、逃げませんよ、例のカフェの女の子にも会わせてくださいよ。すっごい楽しみにしてるんですから・・・。」
水奈子が佑二の車の助手席から手を振りながら叫んだ。細い国道の片側に続く淡い緑の林から、川の水の匂いに混じって心地よい風が吹いてきた。
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