第1章 プロローグ

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 高台にある俺の家を電動自転車で教授の家に向かった。  坂道の両側には桜がほころび始めている。白っぽいピンクの花が開き始めるこの時期が通学路のこの道を一番綺麗に見せてくれる季節だ。肺の底いっぱいに朝の空気を吸い込むと自転車をこぎ始めた。  行きは下り坂で楽なのだが、帰り道のきつい坂道は電動自転車がないと自力で登るのは無理だ。  やれないこともないが、かなりの勾配の坂をアスリートになったつもりで登った事もあったが、翌日はもう心が折れ、筋肉痛もあってバスで登校した。中学1年の時だった。 「ヘタレよね、佳樹は。」  姉の水奈子が言い放った。 「お前がやってみろよ、姉貴の方がヘタレの癖に。」 「はあ・・・!?姉に向かって何、その言葉使いは。女子にそういうこと平気で言えるから彼女ができないのよ!」  自分から喧嘩を売って来たのに逆切れだ。    しかし、意地で自転車通いを続けた為にかろうじて細マッチョ系の体格にはなった。  途中で母親に電動自転車をねだったので、水奈子のヘタレ指摘は正解なのだが、お互いさまを忘れているようなので反撃した。  俺の甘ったれマザコン気質は自覚しているが、水奈子も中学の時に片思いの彼氏に告白してふられ、3か月程引きずっていた前科があるのだ。 「いい加減に忘れて元気出しなさいよ。」  体重が7kg程減り、外出も減って、引きこもりみたいになっていく水奈子に母親が声を掛けたが、元通りになるのに3か月かかった。  今の彼氏ができてからは、立ち直りが早かった感じだが痩せ続ける水奈子に一時はこのまま何かの病気になるのでは、と心配だった。  水奈子は普段ストレートに物を言う系のふりをしているが、実は繊細な性格を隠している、と俺は認識している。なんせ弟の俺も似たような性質を抱えているからだ。
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