第1章 プロローグ

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 コンビニを出て国道を横切って住宅街を5分程自転車で走ると、アパートが3棟並んだ路地裏に着いた。一番道路から離れた棟の3階の角部屋が佑二の部屋だった。1週間前に水奈子と3人で進級祝いのパーティーをしたばかりだ。駐車場の脇の雑草が茂っている場所で自転車を止めようか迷っていると、背後で車の近づく音がした。 「お疲れ。早く乗って。」 水奈子が助手席の窓から顔を出して叫んだ。 「そこでいいから、自転車止める場所・・・・。時間ないから遅刻しちゃうから、早く後ろに乗って。」  郊外の丘に建つ芸大の麓の国道をニ十分程車で走ると、小さな丘を抜けるトンネルに入った。700m程の薄い暗闇を出ると田んぼが視界の両脇に広がった。脇道に入ると、小川の流れる林の向かい側に広がる農家の跡地らしき場所にその教授の家はあった。 「ビタル」と描かれた民家のドアくらいの看板が現れた。丘の麓の際にまるで子供のおもちゃの積み木の様な建物が2棟並んでいた。片方は白っぽいグレー、片方は少し大きめで濃いグレーに塗られている。濃いグレーの方が工房らしい。小さな「陶芸工房ビタル」と書かれた看板がかかっているのが正面に廻ってやっと見えた。教授らしき人影が工房から出てきた。 「やあ、どうも・・・。何かと忙しいところにすみません。とりあえず入って、家内のお手製のレモネードでも飲んで休んで下さい・・・・。」  長身で白髪混じりの男性がおっとりした口調で挨拶してきた。陶芸科教授の伊佐山大輔さんだ。教授の後ろからショートカットの小柄なセピア色の長いワンピー-スを着た女性が続いて出てきた。教授より大分若い感じに見えた。
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