第1章 プロローグ

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「こんにちは。今日は主人の為に無理なお願い聞いて下さってありがとうございます。妻の伊佐山麻美といいます。今日と明日よろしくお願いしますね。」  木綿の様な生地の長いワンピースが似合って上品な感じの人だ。案内されて入った工房は40畳程の広さがありそうだった。中学の時に通っていた塾の教室と同じくらいだった。そこが40畳というのを講師に聞いて覚えていた。両脇には自分で作ったらしい木製の棚が並び、作品が陳列されている。現代陶芸とは聞いていたが、随分と無機質な感じの陶器ばかりだな、と思った。奥の棚には洋書と混じって陶芸関係の本が一面の棚を埋め尽くしていた。さらに奥には電動ろくろ、小型の土練機、釉薬見本、釉薬のバケツ、粘土、などいかにも作業場らしい空間になっていた。 「どうぞ、お掛けになってね。ケーキでも食べてください。今持ってきますから。今日は力仕事だから遠慮なさらずに食べてくださいね。」 麻美さんに勧められるまま、粗い感じの造りの椅子とテーブルに座った。 「このテーブルと椅子も主人の手作りなんです。近所の産廃処理業者から廃材を貰ってきて3日で作ってしまって・・・。何でも一気にやらないと気が済まない人で・・・。」 麻美さんがテーブルを珍しそうに撫でている佑二にケーキを並べながら言った。 「どうぞ、ナッツタルトとベリータルトとチョコタルトです。お代わりもしてくださいね。」 直径30cm程の更に3種類のタルトが8ピース載っている。お皿は当然、教授の作品だろう。グレーとも薄い水色ともとれる曖昧な色合いだった。3人が銘々好きなタルトを自分の皿に載せて一口頬張った。 「美味しい!このレモネードもナッツタルトも!どこのお店ですか?」  水奈子が一人、ハイテンションで叫んだ。 「ハハ・・・。家内のお手製ですよ。またテングになるから、あんまりおだてないでください。」
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