第1章 プロローグ

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第1章 プロローグ

 今日は朝から階下が騒がしい。日曜の午前七時半に母親の紗和子がバタバタ慌ただしく出て行く気配がする。春休みなのに我が家には緩い空気は流れていない。 「朝から大変だけど頑張ってね。行ってきます。」  玄関から母の張り上げた声が聞こえてくる。 今日は母の勤める女子大の卒業式なのだ。母は女子大の准教授をしている。  一度出産で退職したので、復帰しても会社でいうパート扱いの状態だ。  「ハイハイ、大変でも頑張ります。」  一人っきりの居間で呟いた。  居間に降りると、リビングのテーブルには鮭の焼いたのと糠漬けの大根、きゅうり、茄子、なめこの味噌汁、海苔、だし巻き卵、納豆と皮をむいた林檎が皿に載って並べられていた。  純和風の朝食で時々母親と喧嘩する。たまにはチーズトーストとベーコンサラダにしてくれ、と主張すると、和食の方がヘルシーだから、パン食に変える気はないという。  以来、パン食にしたいときは早起きして自分で作ることにしている。  料理は簡単な物しかできないが好きな方だ。  今日はバイトの日だ。高校生にとって二日だけの労働で一万五千円は有り難いが、正直、俺の体力で持つのかは自信がない。バイト料が割高なのは大歓迎だがやはり肉体的にはきつい内容だ。  4歳上の姉の水奈子が通う芸術大学の教授が、退職に伴い研究室の荷物を引き上げるのだが、荷物運びの手伝い要員として水奈子にかりだされたのだ。  荷物を全て教授が開設する自宅脇の陶芸工房に移すのだが、事前にその工房を片付けて、運び入れる機材の置き場所を確保する作業をしなければならない。    一日目はさほどきつくもなさそうだが、問題は二日目だ。  研究室から工房まで重い機材をいくつも運び入れる。釉薬だの信楽粘土だの、挙句には電動ろくろや陶芸窯まであるというのだ。  俺と水奈子とアルバイト1人と65歳の教授の4人では間に合わない気がする。バイト料の事を考えると文句は言えないのだが。
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