第四十二段階 悪事のアイディアは相手の近くで

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澤口の隣に貴子が座りなおすと 「じゃあ、乾杯でもしますか? 部長」 澤口が明るい口調でグラスを持ち上げた。 「乾杯」 三人のビールを注いだグラスがぶつかって、カチンッと音がなった。 「ささ、食べてくださいね。部長。ここの穴子は絶品なんです」 澤口の言葉にみるみる青ざめる白井。 小鉢を手に取り、眺めて青くなって、ごくりと唾を飲み込んでいた。 「あれ、部長。もしかして穴子苦手でしたか? オカシイな。事務の方に聞いたら部長は好き嫌いないって聞いたんですけど」 困ったように眉間に皺を寄せる澤口。 「いや、好き嫌いは無いから……大丈夫」 白井は、目に見えて震える箸を小鉢へ入れて穴子を挟んで恐る恐るというように口へ運んでいる。 ―――ふーん。穴子嫌いとはな。面白くなってきた。 明らかに無理をしているような白井。料理を口へちまちま入れては、流し込むように酒をぐいぐい煽っていた。 「部長? 飲みすぎでは?」 心配する貴子をじろりと睨む白井。 「いや、心配しないでもらえます? 俺の事は藤谷さんには、きっと少しも関係ないでしょうから」 そう言って、今度はビールの入ったグラスをぐいっと空ける。     
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