プロローグ

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「はっきり覚えているよ。和戸尊くんでしょ。珍しい名前だったから特に覚えている」 うんうんと頷きながら尊と向かい合って座る諫早は言った。ちなみに尊は諫早のことを覚えていなかったが、話が進むうちに思い出したところだった。  一年生の、それも春のうちは出会う人物の数が半端ではない。それは学部の同じ授業を受ける仲間だったり、先の新歓コンパで出会った可愛い子であったり、その可愛い子に手を出そうと企む悪辣非道なサークルの先輩だったりと色々だ。  そんなだから尊も、この七月に至るまでに出会った人々の全てを覚えているわけではない。だが、尊が出会った人は必ずといっていいほど尊のことを覚えているのだ。  それは諫早が言うように、和戸尊という名前が覚えられやすいことに起因する。ミステリについて深い知識を持ち合わせていない人でも知っている有名なキャラクターに起因するからだ。 「それはそうと、諫早先輩がこんなところに来るなんて驚きました」 「貴木でいいよ。俺の方こそ驚いた。和戸がここで働いているなんて」
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