プロローグ

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「諫早真清というのは俺の父方の祖母です。ついこの間、癌で亡くなりました。五月の頭の段階で、もう先は長くないだろうと医者に言われていて、それで急いで立会人をつけてこの遺言書を書いたようです」 諫早がそう補足している間も、海老石は鹿爪らしい表情で遺言書をじっと見ていた。やがて、名探偵は静かに口を開いた。 「諫早君にいくつか聞いても?」 「そんな畏まらずに貴木と呼んでください」 「……それでは改めて。貴木くんの生まれはどちらで?」 「生まれは鹿児島の伊佐市です。小学校に入るまでは、そちらで育ちました」 鹿児島県伊佐市。聞いたことのない市だな、と尊は思った。そもそも尊は東海地方の生まれで、九州に足を運んだことは数回しかない。それも、有名な観光地を周っただけだから、それ以外の都市について知っていることは殆どなかった。 「伊佐市……」 何か思うところがあるらしく、海老石はその言葉を噛みしめるように呟いた。
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