プロローグ

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「伊佐市にある曽木発電所遺構。それが、ここに書かれている遺構のことだと推察されます」  近頃はSNSなんかで見栄えの良い観光名所を投稿するのが若者達の間での流行りになっている。だから、比較的出不精な性格の尊でも、曽木発電所遺構のことは知っていた。尊の知り合いの中でも行ったことのある者がいたような気がする。  それは、夏の間だけ顔を出す発電所遺構だ。普段はダム湖の底に沈んでいて、特定の期間だけ水位が下がりその姿を見ることができる。 「できたのはもう今から百年も前のことだったらしい。だから、明治時代のことだね。伊佐市はかつては大口市という名前でね。その名前を取って大口金山というそこそこの規模の金山があって、その近くに牛尾金山とう別な金山もあった。そこに電力を供給するために、発電所は建てられた」 事前に調べてきたのだろうか、諫早は何食わぬ顔で発電所の歴史を話し始めた。 「その役目を終えることになったのは、戦後になってからだ。昭和四十年頃だったみたいだけど、詳しいことはしかるべき書物を読めば分かるかもしれない。とにかく、それくらいの時代になって曽木発電所はダムの底に沈むことになった」  ありそうな話だ、と尊は思った。金山なんて言葉自体、今日では滅多に聞かないし、その殆どが観光地となっている。実際に金を掘っていたのは昔のことなのだろう。
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