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部隊は順調に進み、カーナンの町を越えた。
緊張の満ちる静寂が辺りを包んでいる。いつ敵が襲ってくるのかと、気の休まらない行軍は何処か疲れる。
一行は順調にリリーへ向かい大きな街道を進んで行く。そして、広い平原へと出た時だった。
少し遠くに人垣が見え、剣を抜いた姿が目に入った。
通常ならば前線が足を止め、睨み合い戦いが始まる。数では圧倒的にこちらが上回るだろう。それほど苦ではないはずだ。
だが、先頭を走るファウストはそれをしなかった。
「止まるな! このまま押し通る!」
「!」
スラリと剣を抜き、愛馬の腹を蹴ったファウストは後方部隊よりも先へと走り単騎人垣を突破しにかかる。
その勢いに思わず避けた敵、果敢に挑んだ者は剣の露と消えた。
「そのまま突っ込め! 相手にするな!」
グリフィスの声に全員が剣を抜きつつも馬の足を休める事なく突進していく。
ファウストはまるで海を割るように人垣を割り、逃げた者は捨て置き、阻む者だけを切り捨ててものの数分で突破してみせた。
頼もしい背だった。遙か先を行く黒衣の背は大きく、そして強い。一切の追随を許さない武は、何処か神々しくさえあった。
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