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「……すぐに戻る」
「あぁ、期待しているよ」
ニッと笑ったランバートに頷いて、ファウストは前に出た。
男が場所を空ける。その道を、ファウストは真っ直ぐに走った。
真っ直ぐ行ったその先は、ダンスホールか何かなのだろう。広い中に、隅に寄せられたテーブルなどが見える。
その真ん中で、ルースは待っていた。よく知っている、薄い笑みを浮かべて。
「ようこそ、ファウスト。待っていましたよ」
「ルース…」
「そんなに怖い顔をしないでくださいよ。これでも、心づくしのおもてなしをしたつもりですよ」
「もてなし?」
何を言いたいのか分からない。険しい表情のまま、ファウストは睨み付ける。
ルースの口元が、酷薄に上がる。陰鬱なのに、鮮やかなその表情は鋭く険しく、狂気じみている。
「部下が死に、守るべき民に拒まれ、仲間が倒れ、民が傷つき」
「!」
「恋人が死ねば、より素敵だったのですがね」
弾けるような怒りのまま、抜きはなった剣はルースと正面からぶつかった。ガチガチと力任せの音がする。
近い距離で、ルースは笑った。とても綺麗に。
「その顔です、ファウスト。貴方のその顔が見たかった」
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