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「そういえば、さっき、今年の分が届いたのよ」
読んでいた本から顔をあげて、母さんがテーブルの上に置いたガラスの小瓶を見つめた。
中に詰められた七色に輝く液体は、燐光を発しながらたゆたっている。
二本分。
弟のリュカと、私の分だ。
「……そう」
憮然とした顔つきのまま、もう一度、本に視線を落とした。
母さんも、そんな冷めた私の態度にすっかり慣れきっていて、特に驚きもしない。買い物バッグを手に取りながら、何の疑問も持たずに口にする。
「リュカの分と一緒にここに置いておくから、今日の内に飲んでおいてね」
「ん」
「じゃあ、買い物に行ってくるわね」
「ねえ、母さん」
リビングから出て行こうとした母さんが、振り返る。
染み一つない、白い顔。
澄んだ大きな瞳が、私を見つめてきょとんとしばたいた。
今日は、張りのある体形を際立たせる白いTシャツにジーンズというラフな格好をしている。もう見飽きてしまったけれど、いつ見ても、本当によく似合っていることはたしかだ。
双子のように瓜二つな私たちは、しばし、見つめあった。
母さんと私は、容姿だけでいえば見分けがつかないぐらい似ている。
強いて違いをあげるならば、母さんは豊かな黒い髪をサイドにゆるくまとめていて、私は結ばずにおろしていることぐらいだろう。不自然なぐらいに、似通っている。
彼女は、きっと気づいていない。
私が、その瑞々しく若い姿を見つめる時、どうにも苦しくやるせない気持ちになることを。
「シオン、どうしたの?」
母さんが微笑んだ時、動揺して少し息が浅くなった。私にそっくりで無垢な瞳が、この胸を追い立てる。頭の中を見透かされてしまう気がして、顔が強張った。
今からでも、遅くない。
笑って誤魔化せば、まだ、なかったことにできる。今までだって、何度も似たような気持ちになってきたけれど、いつもそうやって揉み消してきたじゃないか。
母さんは、間違っていない。時折、こんなことを考えてしまう私の方がおかしいんだ。それに、多分、私は少しばかり考えすぎているだけだ。なにもこんな一時の気の迷いで、母さんを心配させることはない。
だから。
今日も、こんな狂気じみた考えは早々に殺して、なかったことにすべきだった。
それなのに、今日に限って何故だか、それができなかった。
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