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そして、輝き始める
罪を犯したあの日から、私の人生は急速に色を持ち、輝きを帯び始めた。
何をしていても退屈でつまらなかったあの牢獄のような日々、灰色で代わり映えのない判で押したような生活が、全てひっくり返ってしまった。
平日は、起きて朝ご飯を作り、一通り身支度を整えたら働きに出かける。
帰ってきたら一家であたたかいご飯を囲んで、お風呂にはいった後、お気に入りの本を読みながら心地よい疲労感に包まれて眠る。
休みの日には、友達や家族と、いろんな場所に出かける。
美味しいものを食べて、他愛もない話をして、ささやかなことで笑う。
今までと、なにひとつやっていることは変わっていない。
でも、あの罪を犯した日から、このささやかな日常の一つ一つが泣きたくなるほどに愛おしくなった。
日々が過ぎ去っていくのを、はじめて、あっという間だと感じた。
それから、今まで見えていなかったものが、次々と目に留まるようになった。
青と薄桃色の入り混じったような、幻想的な朝焼けの空。露に濡れた草花の良い香りに、今日もまた一日が始まるのだとわくわくした。
人々に日差しを投げかける太陽。活気あふれる街の中を、背筋を伸ばして歩いていく。パン屋から漂う、お腹のすく匂い。商店街の人々から飛び交う歓声に、心が玉のように弾んだ。
それから、ある日は冴えわたる夜空の下を、リュカと歩いた。
宝箱をひっくりかえしたように輝いている星々を眺めていたら、自然と胸が震えてきて涙が頬を伝った。
「シオン姉……?どうして、泣いているの?」
瞳を丸くしたリュカがぎょっとして私を見つめた時、慌てて涙を手でぬぐった。
「……ううん。ただ、なんて綺麗なんだろうって思っただけ」
今まで、全然、気づかなかった。
世界は、こんなにも色づいていて美しかったのだと。
「毎日見てるじゃん。シオン姉、急にどうしたの」
何も知らないリュカが呑気に微笑んだ時、胸が軋むように痛んだ。
それでも、この秘密を曝け出すことはできなかった。
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