第22話 “羽倉城の狂宴”(前編)

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 しかも相手の望みが国の一大事に関わるものであれば、その難しい交渉を進めるうちにあまりにも(・・・・・)無知すぎて(・・・・・)某かの襤褸(ぼろ)が出るのは想像に難くない。  赤子のように無知であること――それは世渡りしたばかりの諏訪の者にとって、致命的な弱点であると弦矢は指摘する。森奥に潜む“田舎者だから”では誤魔化しきれぬと。 「では、我らの実状を話して聞かせ、いっそ諦めてもらった方がよいということですな」 「いや、そうとは云わん」  どちらともつかぬ弦矢の言い様に無庵が眉をひそませる。それを自認するからこそ、弦矢も面倒がらずに言葉を重ねる。 「ここは誰もが怖れる“魔境”とのこと。だが、昨夜の一件を踏まえれば、我らの力が通じぬわけでもないようじゃ。ならば、我らを知ってもらった上で、エルネ姫達に我らをどう使うか考えてもらった方がいいだろう」 「それでは向こうに都合が良すぎるのでは?」  すでに申言を許されている無庵の補佐職が、臆せず疑問を呈してくる。  見事に日焼けした精悍な丸顔は文机より槍が似合うと思われがちだが、これでも『慧眼』の覚えがよい立派な文官である。許されてるとはいえ、重臣達が居並ぶ場で堂々と私見を述べるところなど、無庵が好感を持つのも頷けよう。     
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