夕闇の川

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 ──鬼  それはこの世界の絶望。  巨人を想像させるほどの体と鋭い角に牙。その手にはどんなに厚い壁でも軽く砕く、大きな金棒を持ち、それらによって幾人もの子達が文字通り壊されていった。  不定期に訪れる鐘の音を合図に、鬼が現れて、暴れまわる……。そんな世界で、子らは逃げ回ることしかできない。  出会えば……死。  血のつながりなど無い子を、自分の命を差し出してまで助ける道義などあるのだろうか。二つの命を天秤にかけ、片方を失うのならば……人は自分の命をまもるのではないだろうか。  たとえ、自分の目の前で一つの命が失われたとしても。それが、自分ではなかったと安堵し、そのことを忘れ、いつも通りの日常に戻すのが大半だろう。  少女は違った。  この世界に来てから出会った全ての子たち。彼らすべてが大切な命であり、家族であった。誰一人失いたくなく、皆を守るために動いてきた。……それでも、何人かは守れなかったのだが。 「……シゲちゃん、何処にいるの」  鬼に見つからないように、声を殺しながら捜す。  人も鬼も見当たらないこの場所は、拡がり続ける闇も相まって、妙に不気味で重苦しい。 「シゲちゃん……」     
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