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夕闇の川
薄暗く闇が支配するこの街で「カーン……カーン……」と鈍い鐘の音が鳴り響くと、多くの子どもの声は一瞬にして恐怖と絶望が支配する叫び声へと変わった。
「鬼だ! 鬼が来るぞ!」
声変わりもまだであろう、悲痛な叫びが、恐怖をより一層加速させていく。
「速く! みんなこっちよ!」
幼い子どもたちと比べると、一回りほど年の大きい少女が、散り散りに逃げ回る子どもたちをまとめ逃がしていく。
「おねえちゃん……」
「大丈夫よ。ここまで来れば……鬼は来ないから」
恐ろしいだろうに、その様子を見せずに、自分よりも小さな子を励ます。
「ちがうの……」
「……え?」
「シゲちゃんがいないの……きっと……にげおくれて……」
震えながら落ちていく涙が、自分は助けられなかった、弟を置いてきてしまったと、この子の考えを映し出している。
「大丈夫よ。必ず助けてあげるから」
流れ落ちる涙を拭き、少女は向かう。誰一人、欠ける事が無いように。
「おねえちゃん……」
少女は振り向きほほえむ。不安を打ち払い、その顔に再び笑顔を取り戻すために。
光が無くなり、闇が支配するその街に消えていく少女の後で「ごめんね……ごめんね……」と小さな声が聞こえた。
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