578人が本棚に入れています
本棚に追加
/47ページ
第六話「新しい朝」
1
不憫な秘書が社長に置いてけぼりにされた、その同日同時刻。
花衣は学校の映像資料室にいた。
一砥と同じ理由で、彼女も「今は忙しさで気を紛らわせていたい」気持ちだった。
ゆえに授業を終えた後もこうして居残りし、過去の有名なファッションショーの映像を見て、ウォーキング等の勉強をしていた。
O-Cのショーは一ヶ月後に迫り、花衣はそこで亜利紗と一緒に、ショーのメインとなる孔雀のドレスを着る予定だ。
つまり今の彼女には、自分の出来がショーの成功を左右するという、新人が背負うにはあまりに大きな重圧が掛かっていた。
去年開催された世界四大ショーの一つ、パリコレの秋冬コレクションを眺めながら、花衣は美しいモデル達の姿に「はぁ」と感嘆の息を漏らした。
自分はとても、目の前のモデル達のような優雅な動きは出来ない。
だがそれは言い訳にしかならない。
努力し学び少しでもレベルを上げなければ、自分を起用してくれた一色美里にも、一緒にステージに立つ亜利紗にも迷惑を掛けることになる。
責任感の強い彼女らしい向上心で、花衣はパソコンモニターに映るショーの映像を、食い入るように見つめていた。
最初のコメントを投稿しよう!