かえり道

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かえり道

「よかった?こっち、西条くんの家とは反対方向じゃない?」 「いいんだよ。父は海外出張中だし、 母は遅いからね。」 「へえ、すごいんだねお父さん。」 「エンジニアなんだ。シリコンバレーにも居たよ。 中東にも行くなあ。インドにも居たよ。 エンジニアはいろんな国から集まってるから、 会議はその時集まったメンバーが分かる言語でやるんだって。」 「へぇー…すごいねえ。 じゃあ西条くんも外国に住んだことあるんだ」 「あのさ、外国って治安が悪いだろ? 実際紛争地域もあるし。 だから父は、海外出張には僕と母を連れて行きたがらないんだ。 住んだって、アメリカぐらいだよ」 「すごーい」 見下されているようで悔しいが、 卓也には想像もつかない世界だ。 「お母さんもエンジニアなの?」 「ううん。電子工学の教授だよ。 いま人工知能の研究してる。 論文を書くのに忙しくて、夜遅くなることもあるんだ。」 「へぇー…すごいや!」 卓也は目をぱちくりさせる。 中小企業の総務課長である父が海外出張なんてあり得ないし、 母が論文を書くなんて、想像もできない。 「ごはんはどうしてるの?」 「僕作るよ。 うちのキッチンは僕が料理することも考えて オール電化なんだ。 母の希望でピザ焼き窯があるんだよ。 ピザを焼く日には、僕も手伝って ソースを作ったりするよ。」 「すごいねえ…」 優秀なエンジニアの父と大学教授の母。 きっと広くて機能的な邸宅に住んでいるんだろうな。 母親が休みの日にはピザを焼いて、 庭にテーブルや椅子を出して 家族で楽しく談笑しながらいただく。 卓也は勝手に想像して羨ましく思った。 そんな家庭に育ったからからこそ、 中里が倒れた時も沈着冷静に行動できたのだと思った。 「あ、君の言う洋館って、あれ?」 西条が言った。鬱蒼とした緑の中、 レンガ造りの小さな洋館がうずくまるように建っていた。
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