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刑事
その夜、卓也に家に刑事が来た。
チャイムが鳴って、母が出て行くと、
玄関口でヤケに元気な
「こんばんはーっ」
と言う声が響いた。
途端に母がバタバタとリビングに引き返してくる。
「お父さん!刑事さん、刑事さんっ!」
父が新聞をソファに置き、出て行く。
卓也も刑事が見たくて一緒に出る。
玄関に立つ刑事は長身で、やせ型、背広を着て、
クリップボードらしきものを持っている。
眼鏡をかけ、浅黒く、顔に笑みを絶やさず、でもなんとなく怖い感じだ。
体に繋いでいるらしい、
パスケースみたいなものを見せたのは、身分証らしい。
テレビの刑事さんみたいにかっこよくいかないんだな、と
卓也は思う。
「あ、みなさん出てこられて。そんな、大げさなものじゃないんですよ。
最近ですね、もうご存知かと思うんですが、猫がですねえ…
変死する事件が起こってます。それで、簡単な注意喚起と、
何か不審な人物を見たりしたらすぐに知らせてくれるようにと
お願いだったんですよ。
猫飼っていらっしゃいます?」
「いえ…うちでは…」
母が戸惑いながら答える。
「あー。そうですかそうですか。
あと、不審な人物なんかは-特に見ては…」
「僕…見ました」
刑事の顔つきが変わった。
一緒に、ええ!?っという声が、両親から上がった。
「卓也!本当なの!」
「お前…なんで早く言わないんだ」
「ちょっとお話聞かせてくれないかな、えっと、卓也くん」
父が刑事をリビングに招じ入れた。
卓也は猫が殺され始めた頃、
通学路にある、人の住んでいない洋館の
門の鍵が開いていた事、自転車が置かれていた事、
今日下校途中にクラスメイトの西条雅人と洋館に入り、
男と出くわした事を男の人相風体も交え話した。
西条が逃げ遅れて捕まりそうになりながらも
なんとか振り切って逃げおおせた事も話した。
あの時西条は腕を見せてくれた。
「腕をつかまれたけど、振り切って逃げたんだ。
見てよこれ。名誉の負傷だ」
と西条は卓也に右腕の痣を見せた。
「ごめんな、逃げて」
卓也が謝ると西条は「別に」と答えた。
その時の顔が
ミー太という名前がおかしいと嗤った顔に似ていた。
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