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着いたのは、古い、薄汚い2階建てのアパートだった。
「え?ここ…」
「なんだよ。汚ないアパートには入れないってか?
さ、ママが待ってるよ」
物言いが変わった。
西条は卓也の肩に手をかけ無理やり階段を上がる。
真ん中のドアの前に着くと、卓也の手首をつかみ、
片手で鍵を鍵穴に差し込む。
「開いたよ、どうぞ。」
卓也は中に突き飛ばされる。
むっとする熱気と、鼻をつく臭い。
そして、多分血のにおい。
思わず卓也は両手で鼻を覆う。
それでも入って来る匂いに我慢できず、げぇっとえずく。
吐瀉物の臭いが加わった。
「汚ねぇなあ。もうやっちゃったのか。」
見ると西条はマスクをしている。
目が、いつもの西条の目じゃない。
冷たい、感情のない目をしている。
西条は卓也の襟首をつかみ、吐瀉物を口の周りにつけたままの
卓也を引きずった。
「ご到着ぅ~」
襟首を放され、ようやく起き上がって卓也が見たものは-
窓からの光を一杯に浴び、
古くてささくれだった畳の上に乱雑に敷かれた新聞紙の上、
おびただしい血と、猫の毛、血の付いたひものようなもの。
真ん中に、真っ赤になったまな板があり、その上には
出刃包丁がギラギラ光っていた。
「こっちも見るかい?」
血しぶきがそのまま残った障子を開ける。
黒いビニール袋がいくつか。
先程からの腐臭が一層強くなる。
「もうドライアイス買う金ないんだ。」
その中の一つを引っ張って落とす。
畳の上に落ち、ごろん、と卓也の傍に転がる。
西条がまな板の上の出刃をすっと袋に入れると
中から顔がのぞいた。
「見た事あるだろ?あの洋館の浮浪者だよ。
猫もみんな僕だよ。中里んとこのミー太も僕。
あいつやたら話に入ってきて気にくわなかったよ」
動けない。声も出ない。
西条は楽しそうに話す。
「こいつ、僕を襲おうとしたんだ。
ここに誘って殺した。
服一式貰って自転車に乗って
猫を物色したんだよ。」
体中がぶるぶる震えてくる。
「もう猫はいいよ。やっぱヒト。いままでありがと」
西条が出刃をふりかざす。
据わった目とギラギラ光る出刃包丁。
殺される!と目をつぶった時。
「西条雅人、やめなさい!」
刑事が飛び込んできた。
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