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「物騒だなあ」 翌朝、卓也がリビングに行くと、 父が新聞を見て顔をしかめていた。 「おはよう、何?」 父は新聞を差し出す。 一つの記事を指さした。 「〇日の午後6時ごろ、〇〇公園のブランコに頭部の無い猫の死骸が載せられているのを ジョギングをしていた近所主婦が発見し…頭部は滑り台の上に載せられていた。」 昨日の夕方、 卓也住む町の東端にある公園で猫の死骸が発見されたと言うのだ。 「いやぁね。この街、今までそんな事無かったのに。 閑静な文教の街っていうから安心してたのにねえ」 卓也のご飯をよそいながら母が眉をひそめる。 学校でも頭部を切り取られた猫の事は話題になった。 「大谷くん、見た?猫の記事」 休み時間になり、西条が机の端に座り込み、 机の上で頬杖をつく。幅広な輪郭の顔に笑顔をつくる。 「見たよ、気味が悪いなあ」 卓也は机の上の顔に笑顔を返す。 「俺も見たぞ。俺なんか、家近くだから。」 前の席の中里も振り向く。 「ああいうのはさ、案外犯人が捕まりやすいんだよ。」 と西条。 「自己顕示欲の強い愉快犯さ。自分のやったことで騒がれるのが楽しいんだ。 自分のしたことを自慢したいのさ。 みんなで無視してやれば、イラついて、 怒って自分から出てくるさ。」 「ふーん、そういうもんか。俺の家も猫いるから。だといいな。」 と中里。 「うん。こういう猟奇的な犯罪って、パターンが決まってるんだ。 きっとすぐ解決するよ大丈夫大丈夫。」 西条が立ち上がると、チャイムが鳴った。 西条は物知りだ。どんなことでも必ず何かしら知識を持っている。 彼に大丈夫、と太鼓判を押され。卓也と中里は安心した。 下校途中、やはり廃屋の門は開いていた。 門の中は草が茫々と生えている。 中を覗いていると、ぎっという音がして、玄関のドアが開いた。 黒いズボンと、汚れてボロボロのスニーカーが覗く。 卓也は一目散に走りだした。 家が見えて来た。やっと歩き出す。 「見られたかな…」 不安になる。 翌日の新聞にまた頭部を切断された猫の記事が載った。 今度は町の西端にあるバス停だった。
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