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ミー太
切断された首、胴体、四肢、尻尾が
停留所の看板を立てて いる円柱形の石に
並べられていたという。
健太はその猫が、中里の家の猫である事を学校で知った。
中里は教室に入ってくるなり鞄も置かずに西条に突進し
胸ぐらを掴んだ。
「お前、このやろう」
「…」
「お前大丈夫だって、言ったよなあ!?」
西条は中里に襟首を掴まれ、引き上げられるように
立ち上がった。
椅子が後ろに下がる床と擦れる音、
机が傾いて元に戻るがたん、と言う音が響いた。
「あれは、バス停の猫は、うちのミー太だったんだぞ」
教室中がしん、となる。
西条は一言も喋らない。
中里は胸倉を掴んだ手を西条を突き飛ばすようにして放す。
西条は反動でそのま椅子にま腰かけさせられた。
「ちくしょう!」
拳で涙を拭い、
中里は自席に戻ろうとして床に置いた自分の鞄につまづき、
机の角に嫌と言う程脇腹を打った上に
床に思い切り顔を打ちつけた。
「うう…」
周囲が棒立ちになる中、西条が立ち上がる。
「中里くん、中里くん、立てるか?」
中里はやっと四つん這いになったが
手を貸そうとしたのが西条であるのを知り、
払いのけようと思い切り手を振り回して
机の脚にぶつけ
そのままバランス を崩し再び床に突っ伏した。
「誰か保健室の先生呼んできて。担架も持ってきてもらって。」
西条がよく通る声で言った。
数人がバタバタと教室を出て行った。
中里は担架で運ばれて行った。
鼻と口から血を流していた。
腕で目を隠していたが泣いているのがはっきり分かった。
がやがやしている中、一時間目の国語の教師が入って来る。
「はい、席について」
最後に、床の血をぞうきんで拭っていた西条が
席に着いた。
「西条くん、ご苦労さんだったな。
冷静な対応、ありがとう」
西条はいえ、と短く言って席についた。
西条が席に戻る時、卓也は、
「ミー太って変な名前」
と言って軽蔑したように笑ったのを見た。
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