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自転車
担任の話だと中里は脳震盪を起こし、
保健室で休んだ後帰宅したとのことだった。
担任も西条の冷静な行動を褒めた。
この一件で西条は
クラスメイト達から一目置かれるようになった。
沈着冷静な対応より、
あれだけの感情を中里からぶつけられ、暴力を振るわれても
眉一つ動かさなかった事で恐れられたのだ。
相変わらず西条は休み時間になると卓也の所に来て
中里との一件などなかったかのように
蘊蓄たっぷりの雑談をしていく。
中里は話に加わらなくなった。
卓也は廃屋の事を西条に話した。
昨日、新たな「進展」があったのだ。
「西条くん、相談があるんだけど。
猫殺しのことで、気になる人物がいて…」
「何?」
「登下校途中に、誰も住んでない洋館があるんだ。
最近誰かいるらしくて、それからなんだ、猫殺しが始まったの。」
「え?そうなの?そこを毎日通ってきてるの?危なくない?」
「うん…昨日帰りに見たら、門の近くに自転車が置いてあった」
「自転車?…ふうむ。」
西条は腕組みして考える。
幅広な輪郭の顔が顎を引いて考え込んでいるのが
大人びていて、頼もしかった。
朝はいつもギリギリの時間に家を出るので洋館の前だとも気づかず走って通り過ぎる。
下校時は道草する時間がたっぷりある。
昨日も卓也は洋館に近づいた。
門扉はだらしなく片側が開いていた。
何本かの木は伸び放題に伸び、
雑草はここ数日の暑さで更に丈が高くなったようだ。
館全体が鬱蒼とした緑の覆いがかけられているようで涼しそうだ。
炎天下を歩いてきた卓也はついつい開いた門扉から一歩足を踏み入れた。
草の匂いがする。
涼しい。
どこかの駐輪場からでも盗んできたのだろう、
伸びた雑草の中、花壇に隠すように錆びた自転車が置かれていた。
それはちょうど塀に隠れ、外から見えないようにもなっている。
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