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廃墟の男
「へえ…」
西条はなんのためらいもなく門扉を開け、中に入った。
「こじんまりしてるけど、いい造りだね。…
あれが君の見た自転車?」
恐る恐る入って来た卓也に振り向き、
西条が錆びた自転車を指さした。
なんとなく目つきがさっきと違う。
鋭く、精悍な感じがする。
「うん…」
「じゃあ今、その男はここにいるかも知れないね」
「え!?」
それはそうだ。奴は自転車に乗って猫を物色するんだから、
自転車があるっていうことは、ここにいる可能性が高い。
「猫解体してたりして。」
にいっと笑って西条が館へ続く敷石を渡り始める。
「西条くん、帰ろう?」
「なんで?」
西条はもう振り向きもしない。
玄関へ続く階段を上がり、ドアノブを回す。
キイィィー
卓也は扉の開く音に震え上がった。
音を聞いて、奴が来たらどうするんだ。
卓也は仕方なく西条の後をついて行く。
入ると、廊下と階段。廊下の突き当りは扉がある。
カビ臭さが無い。
男が窓を開けて換気しているのだろう、
左手に小さな部屋。扉が開いている。
グラスやマグカップを置いて売っていた。
壁に組み込まれた棚だけがある部屋は、
品物が並んでいた時よりだいぶ狭く見える。
入り口の向かい側の壁にはもう一つ扉があり、
喫茶店に抜ける事が出来た。
扉は開いている。西条は扉へと進む。
細長い空間には以前は丸テーブルが確か3つ並んでいた。
大きな窓からは花壇が見えるが、
今は雑草の緑の中にちらほら、
可憐な花がまるで囚われてでもいるように咲いている。
西条はすたすたと細長い空間を進む。
広い空間に出た。
ここには4人掛けのテーブルがいくつかあった。
がらんとしている。
開け放たれていた
廊下から喫茶店に入る扉が今は閉じられている。
窓から見えるのは四阿、小さな噴水、薔薇を這わせたアーチ。
アーチの小さな赤紫色の薔薇が咲き乱れている。
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