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「血の匂いとか、何かが腐った匂いはしないね。」
そういいながら西条が花をクンと鳴らした時、
物音がした。
足音がこちらに向かってくる。
扉が開いた。
青いベレー帽をかぶった男がぬっと顔を出した。
この暑いのに、くたびれた黄土色のレインコートを着ている。
大柄な男。
ぼんやりとした目つき、目の下のたるみ、無精ひげ、
乾いた、赤黒い唇。その唇が開いた。
「なんだぁ?お前ら。」
「わぁああ!」
卓也は一目散に玄関めがけて走った。
玄関のドアノブを回すのに手間取り、必死で扉を開け、
階段をつんのめりそうになって降りた。
しばらく走った。
息が切れて、喉が痛くなり、脚に力が入らなくなって
やっと走るのをやめた。
四つん這いになってハアハアと息を吐く。
西条が来ない。
どうしよう。
戻る?
そんなこと、とてもできない。
男に捕まって、殺されたら。
卓也は泣きそうになった。
そうだ警察。
携帯を取り出し、110番しようとした時-
「おーい!卓也くん!」
西条が手を振りながら近づいてきた。
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