廃墟

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廃墟

卓也の下校途中には廃屋がある。 レンガ造りの小ぢんまりした2建ての建物。 屋根には黒々とした瓦がのっている。 むかしは、美しい屋敷だったという。 門柱にはツタが這い、 屋敷へと続く小径、洋風の庭へ回り込む小径へは 石が敷き詰められていた。 茶色い、可愛い扉を青い戸口が縁取り、 戸口の上には幾何学模様のようなステンドグラスが嵌っている。 庭への道を縁取る花壇には薔薇と季節の花々。 庭師を雇い、植え替えや樹木の剪定なを 大掛かりにやっていたそうだ。 その後住人は引っ越し、喫茶店になった。 昼は英国風のアフタヌーンティを出し、 夜はビールとフィッシュアンドチップスを出した。 卓也も一度、両親とアフタヌーンティをいただきに来たことがある。 皿を串刺しにしたような食器にお菓子を載せてきたのが 珍しかった。 店主が体を壊し、閉店になった。 繊細な装飾のついた門扉の柵に、大きな黒い鍵がぶら下がった。
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