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あまり人のことをじろじろ見るものではない、と頭を振った。
伊織はそれ以降一年生に目を向けるのをやめ、自分が目的としていた別の販売機の前へと移動した。
すでに生ぬるくなった硬貨を投入口へ運ぼうとした、ちょうどその時。
「あの、すみません」
誰かを呼びかける声が聞こえた。方向的に声の主は一年生で、その「誰か」なんてここには伊織以外の他にいない。
自分が話しかけられたのかと思い、驚いてそちらへ顔を向ける。
一年生は確かに伊織の方をみとめ近づいてくるようだ。あまりにも予期せぬ出来事で拍動が強くなる。
次のアクションをそわそわしながら待機していると、一年生が伊織に、すっと缶を差し出した。
「よかったら、これ飲みませんか?」
彼の手元を見下ろすと、ここで何度か買ったことのあるカフェオレが持たれていた。
激しく謎を突きつけるこの状況を、伊織は上手く飲み込めない。
一年生が片眉を下げて、カフェオレの缶底をゆらゆらと弄ぶ。
「なんだか知りませんけど、押したボタンと違うものが出てきたんですよね。俺甘いの苦手なんで飲めないんですけど、先輩どうですか?」
伊織はここまで説明されて、やっと理解が追いついた。納得がいったと同時に、そのような珍しいことがあるものなのかと目を見張る。
「違うものが出てくることなんてあるんだね」
「俺もびっくりしました」
だが、いくら求めていたものとは別の商品で、それが自分の不得意なものだったからといって、このまま無償でもらう訳にはいかないだろう。
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