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一年生は改めて、手に持つカフェオレを伊織に差し出す。
「もし飲むの怖かったら捨ててください。ちゃんとボタン押してから出てきたものですし、なんの工作もないと思いますが」
何か怪しい物質が混入していると考えているとでも思ったのだろうか。そこまで神経質ではないため、そのような疑念は全く抱いていなかった。
思わず吹き出す。
「別にそれは気にしてなかったよ。でもそうだなあ、これで俺が腹壊したりしたら、きみんとこに請求に行こうかな」
一年生はびくっと顔を強張らせ、怯えた様子を見せた。そのどこか小動物を思わせる表情が愛くるしいもので、伊織は柄にもなくときめきを感じた。
「つーわけで、クラスと名前教えてくれない?」
まるで脅迫そのものだと思ったが、彼のプロフィールを知るにはちょうど良い機会だった。
しかし流石に言い方が良くなかったため、本気ではなかったことを伝えるべく、わざとらしく笑い飛ばす。
「ははは、冗談だよそんなことしないって、安心して?」
「本当ですか?」
「本当だよ、腹壊すなんて思ってないし。ちょっと悪ふざけしただけ」
「……そうですか」
悪いことをしたなと思いつつ、伊織はやっと彼の手から缶を受け取った。
「ありがと、本当にいいの?」
「はい、先輩さえよければ」
「俺はありがたくもらうけど、喉乾いてない?」
「そこまで乾いてなかったんで大丈夫です」
「そっか」
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