全章

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 ユリは、真面目なだけが取り柄の冴えない女子高生である。  そんなユリがクラスの人気者になるのは、テスト前だけだ。  いや、正確には、人気なのは、わかりやすくまとめたユリのノートであり、へたな家庭教師よりよっぽどわかりやすいというユリの教え方で、ユリ自身が人気者になるわけではないのだが。  それでもユリは、嬉しかった。  なぜなら普段は、ユリのことなどまったく眼中にない広瀬もユリの机まできて、 「頼む! 斎藤~、おれにも教えてくれよォ」  と、愛嬌いっぱいの困った表情で話しかけてくるからだ。  ユリは、いつもこの時が仲良くなるチャンスだと思うのだが、問題を教えるだけで毎回精一杯だ。 「え~? なんでそうなるんだ?」 と、グイグイ近づいてくる広瀬にユリは、いつも軽くパニックになる。ドキドキして他の子に教えるように落ち着いて話せない。テンパってしまう。そんなユリの気持ちも知らず、広瀬は、わからない箇所が理解できた途端、 「なるほど! さすがは斎藤。サンキュー!」 と、餌をもらった野良猫みたくぴゅっと去っていってしまう。仲良くなる油断も隙もないのである。
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