第9章 猫には猫の正しさ

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第9章 猫には猫の正しさ

小柄で愛らしい見た目によらず、母猫はなかなか肝の据わった大物なやつだった。 獣医師の先生の見立てによれば彼女は二歳半から三歳くらい。人間でいうと二十代半ばくらいの年頃じゃないかな、ということで、恐らく一回は出産の経験がある。それが人に飼われている時のことか野良になってからのことかはわからないが、脚の怪我の治りも早く、健康状態も良好なので仔猫を産むのに特に支障はないんじゃないかとのこと。 「幸か不幸か、刃物の傷は割に予後が良好だからね。これが車に片脚轢き潰されたとかだったら。障害が残ってもおかしくないから」 「うーんまぁ、それはそうなんですけど」 わたしは彼女の背中をそっと撫でながら口許をひん曲げた。 理屈じゃわかるけど、一概にだからよかったとするのも抵抗があるよな。交通事故なら猫も不本意、運転手も多分不本意。結果は悲惨だけどそこに悪意があるわけじゃない。 でも虐待の傷はね。そんなことを意図する人間がそこにいなきゃそもそも怪我すること自体なかったわけだから。受けなくてもいい痛みをわざわざ与えられたって考えちゃうとなぁ…。     
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